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婴宁 蒲松龄

2013-11-01 17页 pdf 192KB 40阅读

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婴宁 蒲松龄 嬰寧 蒲松齢 田中貢太郎訳 王 子 服 おうしふく はの 羅店 らてん の人であった。早くから父親を失っていたが、はなは だ聡明で十四で学校に入った。母親がひどく可愛がって、ふだんには郊外へ遊 びにゆくようなこともさせなかった。 蕭 しょう という姓の家から 女 むすめ をもらっ て結婚させることにしてあったが、まだ嫁入って来ないうちに没 な くなったので、 代りに細君となるべき女を探していたが、まだ 纏 まと まっていなかった。 そのうちに 上 元 じょうげん の...
婴宁 蒲松龄
嬰寧 蒲松齢 田中貢太郎訳 王 子 服 おうしふく はの 羅店 らてん の人であった。早くから父親を失っていたが、はなは だ聡明で十四で学校に入った。母親がひどく可愛がって、ふだんには郊外へ遊 びにゆくようなこともさせなかった。 蕭 しょう という姓の家から 女 むすめ をもらっ て結婚させることにしてあったが、まだ嫁入って来ないうちに没 な くなったので、 代りに細君となるべき女を探していたが、まだ 纏 まと まっていなかった。 そのうちに 上 元 じょうげん の節となった。母方の従兄弟 いとこ に呉 ご という者があって、 それが迎いに来たので一緒に遊びに出て、村はずれまでいった時、呉の家の 僕 げなん が呉を呼びに来て伴 つ れていった。王は野に出て遊んでいる女の多いのを 見て、興にまかせて独りで遊び歩いた。 一人の 女 むすめ が 婢 じょちゅう を伴 つ れて、枝に着いた梅の花をいじりながら歩い ていた。それは珍らしい佳 い い 容 色 きりょう で、その笑うさまは手に 掬 すく ってとりた いほどであった。王はじっと見詰めて、相手から 厭 いや がられるということも忘 れていた。女は二足三足ゆき過ぎてから婢を振りかえって、 「この人の眼は、ぎょろぎょろしてて、 盗 賊 どろぼう みたいね。」 といって、花を地べたに打っちゃり、笑いながらいってしまった。王はその 花を拾ったが悲しくて泣きたいような気になって立っていた。そして魂のぬけ た人のようになって 怏 怏 おうおう として帰ったが、家へ帰ると花を枕の底にしまっ て、うつぶしになって寝たきりものもいわなければ食事もしなかった。 母親は心配して 祈祷 きとう したりまじないをしたりしたが、王の容態はますます 悪くなるばかりで、体もげっそり瘠 や せてしまった。医師が診察して薬を飲まし て病気を外に発散させると、ぼんやりとして物に迷ったようになった。母親は その理由 わけ を聞こうと思って、 「お前、どうしたの。お母さんには遠慮がいらないから、いってごらんよ。お 前の良いようにしてあげるから。」 といって優しく訊 き いても黙って返事をしなかった。そこへ呉が遊びに来た。 母親は呉に 悴 せがれ の秘密をそっと聞いてくれと頼んだ。そこで呉は王の室へ入 っていった。王は呉が寝台の前に来ると涙を流した。呉は寝台に寄り添うて慰 めながら、 「君は何か苦しいことがあるようだが、僕にだけいってくれたまえ。力になる よ。」 といって訊いた。王はそこで、 「君と散歩に出た日にね。」 というようなことを前おきにして、 精 くわ しく事実を話して、 「どうか心配してくれたまえ。」 といった。呉は笑って、 「君も馬鹿だなあ、そんなことはなんでもないじゃないか。僕が代って探して みよう。野を歩いている女だから、きっと家柄の女じゃないよ。もし、まだ 許 嫁 いいなづけ がなかったなら、なんでもないし、許嫁があるにしても、たくさん 賄賂をつかえば、はかりごとは遂 と げられるよ。まァそれよりか病気をなおした まえ、この事は僕がきっと良いようにして見せるから。」 といった。王はこれを聞くと口を開けて笑った。 呉はそこで王の室を出て母親に知らせた。母親は呉と相談して女の居所を探 したが、名もわからなければ家もわからないので、その年恰好の容色の佳い女 のいそうな家を聞きあわして、それからそれと 索 さが してもどうしても解らなか った。母親はそれを心配したがどうすることもできなかった。 そして王の方は、呉が帰ってから顔色が晴ばれとして来て、食事もやっとで きるようになった。 二、三日して呉が再び来た。王は待ちかねていたのですぐ問うた。 「君、あの事はどうだったかね。」 呉はほんとうの事がいえないので、でたらめをいった。 「よかったよ。僕はまただれかと思ったら、僕の 姑 おば の 女 むすめ さ、すなわち君 の従妹じゃないか。ちょうどもらい手を探していたところだよ。身内で結婚す る嫌いはあるが、わけをいえば 纏 まと まらないことはないよ。」 王は喜びを顔にあらわして訊いた。 「家はどこだろう。」 呉はまた口から出まかせにいった。 「西南の山の中だよ。ここから三十里あまりだ。」 王はまたそこで呉に幾度も幾度も頼んだ。 「ほんとに頼むよ。いいかね。」 「いいとも。僕が引き受けた。」 呉はそういって帰っていった。王はそれから食事が次第に多くなって、日に 日に 癒 なお っていった。そして思いだしては枕の底を探して彼 か の梅の花を出した。 花は 萎 しお れていたけれどもまだ散っていなかった。王は彼の女のことを考えな がら、それが彼の女でもあるようにその花をいじった。 王は呉の返事を待っていたが呉が来ないので、ふしんに思って手紙を出した。 呉は用事にかこつけて来なかった。王は怒って悶えていた。母親はまた病気に なられては大変だと思ったので、急に他から嫁をもらうことにして、それをち ょっと相談したが、王は首を振って振りむかなかった。そして、ただ毎日呉の 来るのを待っていたが、どうしても呉が来ないので、王はたちまち怒って呉を 怨んだが、ふと思いなおして、三十里はたいした道でもない、他人に頼む必要 がないといって、彼の梅の花を袖に入れて、気を張って出かけていった。家の 人はそれを知らなかった。 王は独り自分の影を 路伴 みちづ れにしていった。そして道を聞くこともできない ので、ただ南の方の山を望んでいった。ほぼ三十里あまりもゆくと、山が重な りあって、山の気が 爽 さわ やかに肌に迫り、 寂 ひっそり として人の影もなく、ただ 鳥のあさり歩く道があるばかりであった。遥かに谷の下の方を見ると、花が咲 き乱れて樹の茂った所に、 僅 わず かな人家がちらちらと見えていた。 王は山をおりてその村へといった。わずかしかない人家は皆 茅 葺 かやぶき であっ たが、しかし皆風流な構えであった。北向きになった一軒の家があった。門の 前は一めんに柳が植 う わり、牆 かき の内には桃や 杏 あんず の花が盛りで、それに長い 竹をあしらってあったが、野の鳥はその中へ来て 格 傑 かっけつ と鳴いていた。 王はどこかの園亭 にわ だろうと思ったので、勝手には入らなかった。振りむくと その家の向いに、大きな滑らかな石があった。王はそれに腰をかけて休んでい た。と、牆の内に女がいて、声を長くひっぱって、 「 小 栄 しょうえい 。」 と呼ぶのが聞えた。それはなまめかしい細い声であった。王はそのままその 声を聞いていると、一人の女が庭を東から西の方へゆきながら、杏の花の小枝 を執 と って、首を 俯向 うつむ けて髪にさそうとして、ひょいと頭を挙 あ げた 拍 子 ひょうし に 王と顔を見あわすと、もうそれをささずににっと笑って花をいじりながら入っ ていった。それは上元の日に遭った彼の女であった。王はひどく喜んで、すぐ 入っていきたいと思ったが、姨 おば の名も知らなければ往復したこともないので、 何といって入っていっていいかその 口 実 こうじつ がみつからなかった。そうかとい って門内に訊 き くような人もいないので訊くこともできなかった。王は仕方なし に朝から夕方まで、石に腰をかけたりその辺を歩いたりして、その家に入って ゆく手がかりを探していたので、ひもじいことも忘れていた。その時彼の女が 時どき半面をあらわして 窺 のぞ きに来て王がそこにいつもいるのを不審がるよ うであった。夕方になって一人の老婆が杖にすがって出て来て王にいった。 「どこの若旦那だね。朝から来ていなさるそうだが、何をしておりなさる。ひ もじいことはないかね。」 王は急いで起 た ってお辞儀して、 「私は親類を見舞おうと思って、来ているのです。」 といったが、老婆は耳が遠いので聞えなかった。そこで王はまた大きな声で いった。それはやっと聞こえたと見えて、 「親類は何という苗字だね。」 といったが、王は苗字を知らないので返事ができなかった。老婆は笑ってい った。 「苗字を知らずに、どうして親類が見舞われるのだよ。お前さんは 書 ほん ばかり 読んでいる人だね。私の家へお出でよ、御飯でもあげよう。汚い寝台もあるか ら、明日の朝帰って、苗字を聞いてまた来るがいいよ。」 王はその時空腹を感じて物を喫 く いたかった。また彼の美しい女の 傍 そば へいく こともできる。王は大喜びで老婆について入っていった。 門の内は白い石を石だたみにして、紅 あか い花がその道をさしはさみ、それが 入口の階段にちらちらと散っていた。西へ折れ曲ってまた一つの門を 潜 くぐ ると、 豆の 棚 たな と花の 架 たな とが庭一ぱいになっていた。老婆は王を案内して家の内へ 入った。白く塗った壁が鏡のようにてらてらと光って、窓の外には花の咲き満 ちた 海 棠 かいどう の枝が垂れていて、それが室の内へもすこしばかり入っていた。 室の内は敷物、 几 つくえ 、寝台にいたるまで、皆清らかで 沢 つや のある物ばかりで あった。 王が腰をおろすと、窓の外へだれかが来て窺くのがちらちら見える。老婆が、 「小栄、早く御飯をこしらえるのだよ。」 というと、外から女がかんだかい声で、 「へい。」 と返辞をした。そこで二人の坐が定まったので、王が精しく自分の家柄を話 した。すると老婆が、 「お前さんの母方のお祖父 じい さんは、呉という姓じゃなかったかね。」 といった。そこで王が、 「そうです。」 というと、老婆は驚いた。 「では、お前さんは、私の 甥 おい だ。お母さんは私の妹だ。しょっちゅう貧乏し ているうえに、男手がないから、ついつい往来もしなかったが、甥がこんなに 大きくなってるのに、まだ知らなかったとは、どうしたことかなあ。」 王はいった。 「私がここへ来たのは、姨 おば さんを見舞いに来たのですよ。ついあわてたもの ですから、苗字を忘れたのですよ。」 老婆はいった。 「私の苗字は 秦 しん だよ。ついぞ子供はなかったが、 妾 めかけ にできた小さな子供 があって、その母親が他へ嫁にいったものだから、私が育てているが、それほ ど馬鹿でないよ。だが 躾 しつけ がたりないでね、気楽で悲しいというようなこと は知らないよ。今、すぐここへ来させて逢わせるがね。」 間もなく婢が飯を持って来た。肥った鶏の雛などをつけてあった。老婆は王 に、 「何もないがおあがりよ。」 といって勧めた。王がいうままに膳について食べてしまうと、婢が来て跡始 末をした。老婆はその婢にいった。 「寧子を呼んでお出で。」 「はい。」 婢が出ていってからやや暫くして、戸外 そと でひそかに笑う声がした。すると老 婆は、 「 嬰 寧 えいねい 、お前の 姨 おば さんの家の兄さんがここにいるよ。」 といった。戸外では一層笑いだした。それは婢が女を伴 つ れにいっているとこ ろであった。婢は女を推 お し入れるようにして伴れて来た。女は口に袖を当てて その笑いを遏 と めようとしていたが遏まらなかった。老婆はちょと 睨 にら んで、 「お客さんがあるじゃないかね。これ、これ、それはなんということだよ。」 といった。女はやっと笑いをこらえて立った。王はそれにお辞儀をした。老 婆は女に向っていった。 「これは王さんといって、お前の姨さんの子供だよ。一家の人も知らずにいて、 人さまを笑うということがありますか。」 王は老婆に、 「この方はおいくつです。」 と女の年を問うた。老婆にはそれが解らなかったので、王はまた繰りかえし た。すると女がまた笑いだして顔をあげることができなかった。老婆は王に向 っていった。 「私の躾がたりないといったのは、それだよ。年はもう十六だのに、まるで、 嬰 児 あかんぼ のようだよ。」 王はいった。 「私より一つ妹ですね。」 老婆はいった。 「おお、お前さんは、もう十七か。お歳になるのだね。」 王はうなずいた。 「そうですよ。」 老婆が訊いた。 「お前さんのお嫁さんは、何という人だね。」 「まだありませんよ。」 「お前さんのような 才 貌 きりょう で、なぜ十七になるまでお嫁さんをもらわないね。 嬰寧もまだ約束もないし、まことに良い似合だが、惜しいことには身内という、 かかわりがあるね。」 王は何もいわずに嬰寧をじっと見ていて、他へ眼をやる暇がなかった。婢は 女に向って小声で 囁 ささや いた。 「眼がきょろきょろしていますから、まだ 盗 賊 どろぼう がやまないでしょう。」 女はまた笑いながら娘を見かえって、 「花桃が咲いたか咲かないか、見て来ようよ。」 といって、急いで起ち、袖を口に当てながら、刻み足で歩いていった。そし て門の外へ出たかと思うと崩れるように大声を出して笑った。老婆も体を起し て、婢を呼んで王のために夜具の仕度をさしながら王にいった。 「お前さん、ここへ来るのは容易でないから、来たからにゃ、三日や五日は 逗 留 とうりゅう していくがいいよ、ゆっくりお前さんを送ってあげるから。もし 欝 陶 うっとう しいのが嫌でなけりゃ、家の後には庭がある。気ばらしをするがいい よ。書物もあるから読むがいい。」 翌日になって王は家の後へ歩いていった。果して半畝位の庭があって、細か な草が 毛 氈 もうせん を敷いたように生え、そこの 逕 こみち には 楊柳 やなぎ の花が米粒を撒 ま いたように散っていた。そこに 草 葺 くさぶき の三本柱の 亭 あずまや があって、花の木 が枝を交えていた。 王は小刻みに歩いてその花の下をいった。頭の上の樹の 梢 こずえ がざわざわと 鳴るので、ふいと顔をあげてみた。そこに嬰寧があがっていたが、王を見つけ るとおかしくておかしくてたまらないというように笑いだした。王ははらはら した。 「およしよ、おっこちるよ。」 嬰寧は木からおりはじめた。おりながらとめどもなしに笑って廃 よ すことがで きなかった。そして、やっと足が地にとどきそうになってから、手を滑らして 堕ちた。それと一緒に笑いもやんだ。王は嬰寧を扶け起したが、その時そっと その腕をおさえたので、嬰寧の笑いがまたおこった。嬰寧は樹にかきつくよう にして笑って歩くこともできなかったが、暫くしてやっとやんだ。 王は嬰寧の笑いやむのを待って、袖の中から彼の 萎 しお れた梅の花を出して、 「これを知ってるの。」 といった。嬰寧は受け取っていった。 「枯れてるじゃないの。なぜ、こんな物を持ってるの。」 「これは上元の日に、あんたがすてたものじゃないか。だから持っているのだ よ。」 「持っててどうするの。」 「あんたを愛するためだよ。上元の日にあんたに逢ってから、思いこんで病気 になって、もう死ぬるかと思ったのだよ。それがこうして逢えたから、気の毒 だと思っておくれよ。」 嬰寧はいった。 「そんなことなんでもないわ。親類の間柄ですもの、兄さんがお帰りの時、 老爺 じいや を呼んで来て、庭中の花を大きな 篭 かご へ折らせて、おぶわしてあげます から。」 王はいった。 「馬鹿だなあ。」 嬰寧はいった。 「なぜ、馬鹿なの。」 王はいった。 「私は花が好きじゃないよ、花を持っていた人が好きなのだよ。」 嬰寧はいった。 「親類じゃないの、愛するのはあたりまえだわ。」 王はいった。 「私が愛というのは、親類の愛じゃないよ、つまり夫婦の愛だよ。」 嬰寧はいった。 「親類の愛だっておんなじじゃないの。」 「夫婦になったら一緒にいるのだよ。」 嬰寧は 俯向 うつむ いて考えこんでいたが、 暫 しばら くしていった。 「私、知らない人と一緒にいたことないわ。」 その言葉のまだ終らない時に、婢がそっとやって来たので、王はあわてて逃 げた。 暫くして王と女は、老婆の所で逢った。老婆は嬰寧に訊いた。 「どこへいってたね。」 嬰寧はいった。 「庭で話していたわよ。」 老婆はいった。 「とうに御飯ができてるのに、何の話をしていたのだよ。またお喋りをしてい たのだろう。」 嬰寧はいった。 「兄さんが私と一緒に……。」 王はひどく困って急に嬰寧に目くばせした。嬰寧はにっと笑ってよした。し かし幸にしてそれは老婆に聞えなかったが、そのかわり老婆はくどくどと嬰寧 の長く帰らなかった理由を訊いた。そこで王は他のことをいって打ち消し、そ のうえで小声で嬰寧を責めた。 「あんな馬鹿なことをいうものじゃないよ。」 すると嬰寧がいった。 「あんなことをいってはいけないの。」 王はいった。 「そんなことをいうのは、人に 背 そむ くというのだよ。」 嬰寧はいった。 「他人に背いても、お祖母 かあ さんには背かれないわ。それに一緒にいることなん て、あたりまえのことじゃないの、何も隠さなくってもいいじゃないの。」 王は嬰寧に 愚 おろ かな所のあるのを残念に思ったが、どうすることもできなか った。 食事がちょうど終った時、王の家の者が二 疋 ひき の 驢 ろば を曳 ひ いて王を探しに来 た。それは王が家を出た日のことであった。王の母親は王の帰りを待っていた が、あまり帰りが遅いので始めて疑いをおこし、村中を幾日も捜してみたがど こにもいなかった。そこで呉の家へいった。呉はでたらめにいった自分の言葉 を思いだして、西南の山の方へいって尋ねてみよと教えた。家の者は幾個かの 村を通って始めてここに来たのであった。王は門を出ようとして、その人達に 逢ったのであった。王はそこで入っていって老婆に知らし、そのうえ嬰寧を伴 つ れて帰りたいといった。老婆は喜んでいった。 「私がそう思っていたのは、久しい間のことだよ。ただ私は、遠くへいけない から、お前さんが伴れて、 姨 おば さんに見知らせてくれると、好い都合だよ。」 そこで老婆は、 「寧子や。」 といって嬰寧を呼んだ。嬰寧は笑いながらやって来た。老婆は、 「何の喜しいことがあって、いつもそんなに笑うのだよ。笑わないと一人前の 人なのだが。」 といって、目に怒りを見せていった。 「兄さんがお前を伴れていってくれるというから、仕度をなさいよ。」 老婆はまた使の者に酒や飯を出してから、一行を送りだしたが、その時嬰寧 にいった。 「 姨 おば さんの家は田地持ちだから、余計な人も養えるのだよ。あっちにいった なら、どうしても帰ってはいけないよ。すこし詩や礼を教わって、姨さんに 事 つか えるがいい。そして、姨さんに良い旦那をみつけてもらわなくちゃいけない よ。」 二人は出発して山の凹みにいって振りかえった。ぼんやりではあるが老婆が 門に倚 よ って北の方を見ているのが見えた。やがて二人は王の家へ着いた。母親 は美しい女を見て訊いた。 「これはどなた。」 王は、 「それは姨さんの家の子供ですよ。」 といった。母親は、 「姨って、いつか呉さんのいったことは、うそですよ。私には姉なんかありま せんよ、どうして 甥 めい があるの。」 といって、嬰寧の方を向いていった。 「ほんとに私の 甥 めい なの。」 嬰寧はいった。 「私、お母さんの子じゃないの。お父様は秦という苗字なの。お父様の没 な くな った時、私、あかんぼでしたから、何も覚えはありませんの。」 王親はいった。 「そういえば、私の一人の姉が、 秦 しん へ嫁入ってたことは確かだが、没くなっ てもう久しくなっているのに、なんでまた生きているものかね。」 そこで顔の恰好や 痣 あざ や 贅 いぼ のあるなしを訊いてみると一いち合っている。 しかし母親の疑いは晴れなかった。 「そりゃ合ってるがね。しかし没くなって、もう久しくなる。どうしてまた生 きているものかね。」 判断がつきかねている時、呉が来た。嬰寧は避けて室の中へ入った。呉は理 由を聞いて暫くぼんやりしていたが、 忽 たちま ちいった。 「女は嬰寧といいやしないかい。」 「そうだよ。」 と王がいった。呉は、 「いや、そいつは、怪しいよ。」 といった。王は呉が女の名を知っていることを先ず聞きたかった。 「君はどうしてその名を知っているね。」 「秦の 姑 おば さんが没くなった後で、姑丈 おじ さんが 鰥 やもめ でいると、狐がついて、 瘠 や せて死んだが、その狐が女の子を生んで、嬰寧という名をつけ、むつきに包 んで 牀 とこ の上に寝かしてあるのを、家の者は皆見ていたのだ。姑丈 おじ が没くなっ た後でも、狐が時おり来ていたが、後に張天師のかじ 符 ふだ をもらって、壁に貼 は ったので、狐もとうとう女の子を伴れていったのだか、それじゃないかね。」 皆で疑っている時、室の中からくつくつと笑う声が聞えて来た。それは嬰寧 の笑う声であった。母親はいった。 「ほんとに彼 あ の子は馬鹿だよ。」 呉が女に逢ってみようといいだした。そこで母親が室の中へ呼びにいった。 嬰寧はまだ大笑いに笑っていてこっちを向かなかった。 「ちょっとおいでなさいよ。逢わせる人があるから。」 嬰寧は始めて力を入れて笑いをこらえたが、また壁の方に向ってこみあげて 来る笑いをこじらしているようにしていて、時を移してからやっと出たが、わ ずかに一度お辞儀をしたのみで、もうひらりと身をかえして室の中へ入って、 大声を出して笑いだした。それがために家中の 婦 おんな が皆ふきだした。 呉はその不思議を見きわめて、異状がなければ 媒 酌 人 ばいしゃくにん になろうとい って、西南の山の中の村へ尋ねていった。そこには家も庭もまったくなくて、 ただ木の花が落ち散っているばかりであった。呉は 姑 おば の墓がそのあたりにあ るような気がしたが、何も墓らしいものが見えないので、疑い怪しみながら帰 って来た。 母親は呉の報告を聞いて、嬰寧を幽霊ではないかと疑って、その室へ入って いって、 「お前さんの家は、ないというじゃないか、どうしたの。」 といったが、嬰寧はべつにあわてもしなかった。 「お気の毒ねえ、家がなくなって。」 ともいったが、べつに悲しみもせずに笑うばかりであった。 嬰寧は何につけても笑うばかりであるから、だれもその本姓を見きわめるこ とはできなかった。母親は夜、嬰寧と同じ室に寝ていた。嬰寧は朝早く起きて 朝のあいさつをした。裁縫をさしていると手がうまかった。ただ善く笑うだけ は止めても止まらなかった。しかし、その笑いはにこにこしていて、狂人のよ うに笑っても 愛 嬌 あいきょう をそこなわなかった。それで人が皆楽しく思って、隣 の女や若いお嫁さん達が争って迎えた。 母親は吉日を 択 えら んで王と嬰寧を結婚させることにしたが、しかし、どうも 人間でないという恐れがあるので、ある日、嬰寧が陽 ひ の中に立っているところ を 窺 のぞ いてみた。影がはっきりと地に映っていてすこしも怪しいことはなかっ た。そこで母親はその日が来ると華かな衣装を着せて儀式の席へ出したが、嬰 寧がまた笑いだして顔をあげることができないので、儀式はとうとうできずに 終った。王は嬰寧が馬鹿なために二人の間の秘密を漏らしはしないかと恐れた が、それは決して漏らさなかった。 母親が心配したり腹を立てたりする時に、嬰寧が傍へいって一度笑うと、そ れでなおってしまった。 婢 じょちゅう や 奴 げなん が 過 あやま ちをしでかして、主婦に 折 檻 せっかん せられるような時には、嬰寧の所へ来て、一緒にいって話してくれと 頼むので、一緒にいってやるといつも 免 ゆる された。 嬰寧は花を愛するのが癖になっていた。そっと金の 釵 かんざし を質に入れて、 その金で親類の家をかたっぱしから探して、佳 よ い花の種を買って植えたが、数 月の中に、家の入口、 踏 石 ふみいし 、垣根 かきね 、便所にかけて花でない所はなくなっ た。庭の後に 木 香 もっこう の木の棚があった。それは元から西隣の家との境にあっ た。嬰寧はいつもその棚の上に攀 よ じ登って、薔薇 ばら の花のようなその花を摘んで 頭髪にさした。母親は時どきそれを見つけて叱ったが嬰寧はついに改めなかっ た。 ある日、西隣の男がこれを見つけて、じっと見とれたが、嬰寧は逃げもせず に男の方を見て笑った。西隣の男は女が自分に気があると思ったので、心がま すますとろけた。と、女は 牆 かきね の下に指をさして笑ってからおりていった。 西隣の男は女が晩にここへ来いといったと思ったので、大悦びで日の暮れるの を待ちかねて牆の下へいった。いってみると果して女が来ていた。西隣の男は すぐ抱きかかえた。と体の一部が 錐 きり で刺されたように痛さが体にしみわたっ たので、大声に叫ぶなりれてしまった。その男の女と思ったのは一本の枯木で あった。その男の父親は 悴 せがれ の叫び声を聞きつけて走って来て、 「おい、どうした、どうした。」 といったが悴は 呻 うめ くのみで何もいわなかった。そこへ細君が来たので悴は 事実を話した。そこで火を点 つ けて枯木の穴を照らしてみた。そこには小さな 蟹 かに のようなさそりがいた。父親は木を砕いてさそりを殺し、悴をおぶったが、 夜半頃になって悴は死んでしまった。 西隣では王を 訟 うった えて、嬰寧が怪しいことをするといった。村役人はかね てから王の才能を尊敬して、篤行の士と言うことを知っていたので、西隣の父 親のいうことは誣 し いごとだといって、杖 むち で打たそうとした。王は西隣の父親 のためにあやまってやったので、西隣の父親は 釈 ゆる してもらって帰って来た。 王の母親は嬰寧にいった。 「馬鹿なことをするから、こんなことになるのだよ。もう笑うことはよして、 悲しいことも知るがいいよ。村役人は幸にわかった方だから、よかったものの、 これがわからない役人だったら、きっとお前を役所で調べたのだよ。もしこん なことがあったら、あれが親類へ顔向けができますか。」 嬰寧は顔色を正していった。 「もう、これからは、決して笑いません。」 母親はいった。 「人は笑わないものはないから、笑ってもいいが、ただ時と場合を考えなくち ゃ。」 嬰寧はこれからはまたと笑わなかった。昔の知人に逢ってもついに笑わなか った。しかし、終日 淋 さび しそうな顔はしなかった。 ある夜、嬰寧は王といる時に、涙を流した。王は不思議に思って訊 き いた。 「どうした。」 すると嬰寧はむせび泣きをしていった。 「これまでは日が浅いから、こんなことをいったら、怪しまれるだろうと思っ て黙っていましたが、今ではお母さんもあなたも、皆さんが私を可愛がってく ださって、へだてをしてくださらないからありのままに申しますが、私はもと 狐から生まれたものです。母が他へゆくことになって、私を没くなっているお 母さんに頼んだものですから、私は十年あまりもお母さんの世話になってて、 今日のようなことになりました。私には他に兄弟もありませんし、恃 たの みにす るのはあなたばかりです。今、お母さんは寂しい山かげにいるのですが、だれ もお父さんの傍へ葬ってくれないものですから、お母さんはあの世で悲しんで いるのです。あなたがもし、費用をおかまいなさらないなら、あの世の人の悲 しみをなくしてやってください。私をお世話してくだされてるから、すててお くこともできないと思って。」 王はうなずいた。 「いいとも、だがどこにあるだろう。」 嬰寧はいった。 「すぐ 判 わか ります。」 日を期して二人はを持って出かけていった。嬰寧はいばらの生い茂った荒れ はてた中を指さした。掘ってみると果して老婆の 尸 しがい があった。皮膚も肉体 もそのままであった。嬰寧はその尸を撫 な でて泣いた。 そこで二人はその尸を に入れて帰り、秦氏の墓を尋ねて合葬した。その夜、 王の夢に老婆が来て礼をいって帰った。王は寤 さ めてそれを嬰寧に話した。嬰寧 はいった。 「私は、ゆうべ逢ったのですよ。あなたをびっくりさしてはいけないというも のですから。」 王はいった。 「なぜ留 と めておかなかったのだ。」 嬰寧はいった。 「あの人はあの世の人ですから、生きた人の多い、陽気の勝った所にはいられ ないのです。」 そこで王は訊いた。 「小栄はどうしたのだろう。」 嬰寧がいった。 「あれは狐ですよ。あれは気が利いてたから、母が私の世話をさしたものです。 しょっちゅう木の実を取って来てくれました。だから私は有難いと思ってるの ですが、母に訊きますと、もうお嫁にいったのですって。」 その歳から 冬至 とうじ から百五日目にあたる 寒 食 かんしょく の日には、夫婦で秦氏の 墓へいって掃除するのを欠かさなかった。女は翌年になって一人の子を生んだ が、抱かれているうちから知らない人を 畏 おそ れなかった。そして、人さえ見れ ば笑ってまた大いに母のふうがあった。 底本:「聊斎志異」明徳出版社 1997(平成 9)年 4月 30日初版発行 底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会 1926(大正 15)年 3月発行 嬰寧 蒲松齢 田中貢太郎訳
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